「ディプロマットスター」「エコグラーニ」の株式会社ディートレーディング髙木強社長インタビュー

株式会社ディートレーディング髙木強社長
瓦工事会社に勤め、自ら瓦を葺いた経験から瓦を尊重しつつ、
耐久性と通気性のあるストーンチップ鋼板の良さを広めていきたい
素材の良さに共感してくれるお客様がいたからここまでこられたと思っています

はじめに

「ディプロマットスター」「エコグラーニ」といった石付き鋼板屋根材(ジンカリウム鋼板)を日本で企画・販売している株式会社ディートレーディングの取締役社長の髙木強さんに、屋根材と出会ったきっかけや企画・販売に携わったきっかけや屋根材への想いやこれから実現したい目標などについて伺いました。

野球少年だった幼少~少年時代。大量消費大量生産の終焉を感じ、「自分で電気を作る」太陽電池に着目

――生い立ちについて教えてください。

千葉県で生まれて、幼少期や学生時代をずっと千葉で過ごしてきました。
小さい頃から学生時代まで野球少年でしたね。特に小さい頃から建築に興味があったわけではなかったです。
高校生の時に大工になりたいと思ってまして。高校で甲子園の夢が敗れて暇になったのでたくさんアルバイトをしたんですね。
引っ越し屋、郵便配達の他、夜はラーメン屋で働くなど、とにかくたくさんの職を経験しました。
とにかく色んな仕事を経験することで、自分が何がしたいか、何に向いているかを探していたのかもしれません。

その中で同級生のお父さんが職人さんをやっていたこともあり、足場や塗装、工務店など色んな日雇いのバイトもたくさん経験して、楽しい、面白いと思ったんです。
大工になりたい気持ちと、住宅関係に興味があったことから、卒業後には住宅設備会社のサラリーマンとして就職し、22~23歳の時に瓦工事会社に入社して屋根との接点が生まれました。

――なぜ瓦屋さんに行かれたのですか?

当時太陽電池を国として普及しようとしていたはしりの時代で、たまたまそこの瓦屋さんが太陽電池と瓦を扱っていたからですね。
私はこう見えても純粋な人間でして(笑)、自分の中に電気を自分で作って生活していかないといけない、火力や原子力は便利でそれに生かされているけれども極力再生エネルギーを使っていきたいという想いが根っこにあるんです。
当時、バブルが崩壊した時代に、これからは大量生産大量消費の時代は終るというのを感じていて、環境を大事にしたビジネスモデルというのを探していました。

――まだ20代の頃にそこまで考えられていたのですね。そういうビジネス的な知見や発想はどのように培われたのでしょうか?

そうですね、そんな質問はこれまで受けたことなかったですが、実の兄が私が小学生の時にゴミを集めてスクラップ屋に持っていたのを見ていまして。
それで小学校までの往復3~5kmの距離でたくさん鉄くずやゴミを集めて持っていくと200円位くれるわけですよ。
古い自転車なんかも持っていくから近所のおばあちゃんから感謝もされる。道がきれいになって人から感謝されてお金ももらえる、鉄くずが仕事(お金を得る、ありがとうを得る)ことになるわけです。これはいいなと思ったんですね。

瓦屋で現場や販売に従事する中でストーンチップ付き鋼板屋根材に出会う

株式会社ディートレーディング髙木強社長

――なるほど。それでその瓦屋さんでご自分で施工もされていたのですか?

はい。屋根や瓦のことがわからないと設置できないので、そこでまずは瓦や屋根の現場を学びました。
とはいえ日本瓦の施工はやっぱり難しいですからね。最初は親方についてまずは荷上げや材料を運ぶ雑用からやっていました。
それで一年くらいたつと営業に回されて、瓦と太陽電池を飛び込みで販売する仕事をやっていました。

当時太陽光電池が製品だけで400~500万で、それに屋根工事を行うと600万近くなりましたがこれが結構売れましてね。
施工ももちろん自社で責任施工でやるわけです。雨漏りがしても責任もちますということができるわけですね。
1990年ごろから住宅メーカーが安価で合理的な屋根材をメーカーが求めていたこともあり、当時スレート屋根が広く普及してきていました。

スレートは瓦よりは軽いですが、薄い分耐久性が劣ります。太陽光電池を載せると荷重で割れることもあり相性はあまりよくありませんでした。
瓦は耐久性の素晴らしい屋根材ですがどうしても重さがあります。そこに500~600kgの太陽電池を載せるので建物への負荷は増えますよね。
その中でストーンチップ付き鋼板屋根材に出会ってこれは画期的だ!と思いました。

――どんなきっかけでストーンチップ付き屋根材に出会われたんですか?

平成11年(1999年)ごろだと思いますが、たまたま福島の現場に太陽光と屋根材の設置に行きました。
そうしたら見た目は瓦そっくりだったのに瓦じゃなかったんです。ニュージーランドのストーンチップ鋼板で、軽くて丈夫なその屋根材に太陽光を設置しました。
千葉もそうですが海沿いは塩害で錆びてしまうので、瓦の市場なんですよね。
でもその新しい屋根材は瓦の1/6の重さで、割れない強さがあり、塩害にも強い。
これだ!と思ったわけです。

――それがディートレーディングに入社されるきっかけになったのですか?

そうです。しかしその時点ではまだ入社はしておらず、一瓦屋として商材を扱いたいと言って訪問したんです。
ストーンチップ付き鋼板屋根材に出会ってこの屋根材を販売するぞ!と決意したのですが、当時は誰もその屋根材を知らないんですよね。
それで色んな商社に聞いて回ったところ、ある一社がこんなところがあるよ、と言って教えてくれたのがディートレーディングでした。

当時のディートレーディング社は先代の藤山が社長で、年商は9000万円くらい。晴海埠頭の家具ビルに10坪の事務所がありました。
ディートレーディングは藤山が貿易商人として主にアメリカ建材を扱う商社としてスタートしており、海外志向の新築が増えて、輸入住宅が流行っていた時代に合わせて、屋根材より先に無垢の床材など多くのアメリカ建材を扱っていました。
そこに、「ストーンチップ鋼板材を扱わせてほしい」と訪問して、一瓦屋としてこれまでのお客様に販売する活動をはじめました。

――売れましたか?

売れませんでしたね。
「こんなものがもつわけないじゃん」という感じの人もいて中々厳しかったです。
あまり見たことがないということや、施工経験がない、輸入屋根材なので少し高いというのもありました。
これは売るのしんどいわという状況でした。

耐久性と通気性に魅力を感じ、世に広めることが社会的使命と信じてディートレーディングへ。

株式会社ディートレーディング髙木強社長

――そこをどう突破されていったのですか?

当然私の中ではこれはいいものだという自信があったので、何としてもこの屋根材を世に広めなければ!という社会的使命を感じていました。
住宅のメンテナンスでは、耐久性の高いものを使うこと、素材が割れないこと、そして通気性が重要なんです。それは瓦とスレートを販売や施工していて痛感していました。
板金でありながら密着せずに通気性のある商品というのは当時ほとんどなかったのもあり、理解されていなかったんですよね。

当時は7割近くが瓦の時代で、セメント瓦が屋根市場を席巻したときもありましたが粘土とは違うので、割れてしまうんです。
耐久性を高めるアスベストもダメになって。これしかないと思いました。

――それでディートレーディングに入社されたのですか?

はい。当時勤めていた瓦屋さんも100人くらい従業員がいましたが、「新しいもの」ということで誰も販売してみようとしてくれず、その屋根材の価値を認めてもらえませんでしたね。

自分のやりたいことができなければ、自分で挑戦するしかないなと思い、その瓦屋さんを辞めて、ディートレーディングに入社しました。
当時の上司と、もう一人の営業と三人で個別に屋根屋、工務店、不動産会社を訪問して共感を求めてひたすらに売り歩きました。
その中で価値を感じてくれる設計士さんや現場監督さんがいるとうれしかったですね。
価値を理解して使ってくれる人が一人でもいることが本当にうれしく思いました。

「ディプロマット」「エコグラーニ」の誕生

株式会社ディートレーディング

――当時の屋根材は何という商品ですか?

「アルメットルーフィング」というアメリカで開発・製造された商品です。当時はこの一商品だけでした。
それから平成14年(2002年)に、日本で研究・試作していた「ディプロマット」が新しいラインナップとして誕生しました。

「ディプロマット」は横葺きの一文字二段葺きを1つにするという概念で企画されています。
企画は日本ですが、製造はアメリカで行い、名前もアメリカの人が付けてくれました。「diplomat(外交官)」なので、外交的・協同的なイメージですよね。
アメリカでは「ガーディアンシングル」というまた別の名前で販売されていました。
「ディプロマット」はスレートに近い仕上がりになりますが、当時もう1つラインナップされていたクラシックタイルは波型の仕上がりになり、和洋問わずデザインに富んでいます。

この二つの中間ラインナップが平成20年(2008年)に誕生した「エコグラーニ」です。
「エコグラーニ」は桜などの木材を薄切りにして重ねたウッドシェイクを板金で真似たイメージで、できるだけ平たいフォルムで厚みを出しています。

――今も屋根材の開発は日本で行われているのですか?

そうです。「ディプロマットスター」「エコグラーニ」「ローマン」「クラシック」の全てを企画・開発は日本で行っています。
製造のみ海外で、現在では韓国の工場を主軸に行っています。製造する機械は現地で組んでおり、品質検査も日本人スタッフが行っています。

――入社後は順調にディートレーディングで販売されていったのですか?

実は入社して一年半くらいたった後に退社しているんです。
当時まだまだ業界でも知らない人が多い屋根材でしたので、商品だけを販売するのが難しかったんですね。
メーカーで安定して販売するためには、材料と工事の両方が揃って初めて反響が伴うので、当時は売ったはいいけどこれを誰か施工するの?という問題がありまして。
施工できる人が少なかったんですよね。

それで自分で工事会社を立ち上げました。
現場にも自分で行って施工するので、昔に戻ったような感じですね。
7人くらい若い人を集めて、スタートしたんですが屋根の経験者は一人。
未経験の人たちを教えながら、ディートレーディングの屋根の普及に努めていきました。

――ディートレーディングに戻られたのはいつですか?

施工会社を設立して10年くらい経ってその人達が力を付けて独立した頃に、ディートレーディングに戻ってきました。
今ではみんなディートレーディングの大事な取引先のお客様です。

すべては屋根材の価値を信じてくれたお客様のおかげ

――ディートレーディングの現在や今後の目標について教えてください

ディートレーディングは昨年の売り上げが19億円となりました。
これもすべてこの屋根材の価値を認めてくれたお客様のおかげと思っています。いいと思ったお客様が紹介してくれるんです。

ありがたいことなのか広告を出しても出さなくても売り上げがあまり変わらないんです。
弊社の売り上げという観点からの目標でいうと、今屋根業界の中でのシェアが1.5~2くらいですがこれを5~6くらいに延ばしたいですね。
とはいえ強引に売りたいわけではなく、営業の数字がいい販売店さんでも、売り方に問題があるようなところはこちらからお断りすることもあります。
精一杯いい仕事をして、従業員同士も仲がいいですから、いかに我々自身が楽しくそしてお客様にも楽しんで満足してもらえるような会社でありたいと思います。

太陽光発電でいえば、2018年には国内の太陽光発電メーカーと屋根の改修と太陽光設置を同時に行える『ソラトモ スマートルーフ』を共同開発しました。
弊社の屋根材に太陽光パネルを穴をあけずに施工できるため、きれいに取り外しが行え、また約30年という長寿命の屋根材のためメンテナンスコストが抑えられます。
他にも屋根を早く直す仕組みとして、ドローンの利用や、保険会社と組んで大きな災害の時にスムーズに保険を使って屋根を直せる仕組みづくりもしています。

災害時に迅速に屋根や建物を復旧する仕組みづくり

株式会社ディートレーディング髙木強社長

――災害の時に保険を使った屋根修理の仕組みとは?

2020年9月に、自然災害の際に国内の大手損害保険会社と連携して、全国の屋根・外装会社など建設会社が復旧工事にあたる「一般社団法人 全日本災害住宅レジリエンス協会(JRD)」を設立しました。
これは台風などの災害が起きた時に、速やかに保険の申請をしつつ屋根や外壁を復旧する団体です。
火災保険に加入していれば台風などの自然災害による補修は保証されるのですが、保険申請のためには業者の現地調査と見積が必要です。
しかし大規模災害時には地元の業者に業務が集中してしまい、手が回らなくなってしまいます。見積が出せないので保険金支払いも遅れて復旧が遅れてしまうという現実があります。

また災害の後には悪質な業者も出てくるという不安もあります。
もともと損保会社は修理する業者を紹介する機能をもたないのですが、今回大手損保会社と提携することで、この損保会社がJRDの会員である業者を紹介する仕組みが実現しました。

JRDの会員は現在全国で1100社を超えています。駆け付けられる業者が被災地に入って迅速な現地調査、見積書作成を行って損保会社に提出するため、保険金を活用した復旧作業がスムーズに行なえます。
これによって被災した方が業者を探すという手間がなくなり、被災地で跋扈する悪徳業者に付け入られることがなくなります。
また、損保会社も過剰見積のリスクや、着工までの期間が長引くことによる保険金増大の問題も解消されます。

――団体の設立のきっかけは何だったのですか?

2018年の千葉の台風によって被害が出た時には、地元である千葉の災害復興に行っていました。
朝の5時に家を出て現地調査して保険申請をして、直せるものは直していました。
それを三か月くらい行うなかで、保険申請のプロセスがもっとスムーズにならないかと思ったんです。当時ドローンを販売していた関係で今回提携した東京海上日動の代理店だったこともあり、そちらの損害部を訪問して相談をしました。
損保会社の方でも実は大規模災害における保険を使った修繕に関して、企業とマッチアップする方法を10年近く模索されていたこともあり、一緒にさせて頂くことになりました。

私はメーカーの人間なので、JRDの代表は名古屋の塗装屋「麻布」の代表である池田大平氏に依頼して就任してもらいました。
彼は「塗装で社会貢献」をモットーに塗装によるボランティア活動をしている「塗魂ペインターズ」の初代設立メンバーでもあります。
私も時々参加して、例えば少年院や福島で津波の被害にあった場所などで塗装を行なったりしています。
JRDは平時は賠償工事、火災保険の案件の送客などを行っております。
また会員の保険についての理解を深める講習や工事を引き受ける電話の対応など各種対応・認識の向上のため、テキストを制作してよりよい復旧工事が行えるように努めております。

瓦を尊重した上で屋根屋として屋根業界のより良い未来を想像したい

株式会社ディートレーディング髙木強社長

――ご自身の今後の展望について教えてください

私自身は元々瓦の世界にいたのもあって、耐久性という点では瓦が一番だと思っています。
瓦を尊重した上で、瓦を施工する職人さんにも弊社の屋根材を一緒に施工しませんかと声をかけています。
お客様の別のニーズを満たす商品の提示ができるのと、瓦職人は特に若い人がこない後継者問題がありますので、この商品を使って一緒に人を呼ぶこともできると思うからです。

エンドユーザーが求めているのは「屋根屋さん」で、瓦とか板金とかそんな区別はあまり認識されていないんですよね。
現在瓦の業界がどんどん縮小していますが、やはり瓦の技術を絶やしてはいけないなと。
瓦は補修や改修の必要性もあるので、瓦の技術を残していくお手伝いがしたいと考えています。
たとえば弊社の製品を多く扱っている施工店さんに瓦の施工技術を学んでもらうなどして、「屋根屋」として屋根業界のよりよい未来を共に創っていきたいと思います。

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